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最高裁判所第二小法廷 昭和59年(オ)1404号 判決

主文

原判決を破棄する。

被上告人の本件控訴を棄却する。

控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人渡辺義弘の上告理由について

原審は、(1) 被上告人は本件土地を所有していたところ、昭和五五年二月二八日東急興業株式会社(以下「訴外会社」という。)に対し、代金を三〇〇〇万円と定め、契約締結時に手付金として九〇〇万円を支払うものとし、その授受と同時に所有権移転登記手続をすること、残代金二一〇〇万円を同年七月一五日までに完済すること、代金完済と同時に本件土地を引き渡すこと、との約定で本件土地につき売買契約を締結し、即日九〇〇万円を受領して同月二九日訴外会社に対する所有権移転登記を経由したが、訴外会社が残代金を支払わなかつたため、その支払を催告したうえ同年一〇月二〇日頃訴外会社に対し、右契約を解除する旨の意思表示をした、(2) しかるに、訴外会社は同年一一月二八日飯原敬治に対し本件土地を売却して所有権移転登記を経由し、次いで飯原は同年一二月一五日上告人らに対し本件土地を売却して所有権移転登記を経由した、(3) 被上告人は本件土地を占有している、(4) 売買契約解除時における本件土地の価格は少なくとも三〇〇〇万円である、との事実を確定したうえ、被上告人は、訴外会社に対し本件土地の現物返還請求権に代わる三〇〇〇万円の価格返還請求権を取得したものというべきであるので、本件土地の転得者たる上告人らから所有権に基づく引渡請求があるときは、右請求権を被担保債権として留置権を行使しうる旨判示し、「被上告人が、訴外会社から二一〇〇万円の支払を受けるまで、本件土地を留置する権利を有することを確認する。」との被上告人の本訴請求を認容している。

しかしながら、原審の右判断を是認することはできない。なぜなら、原審の適法に確定した前記の事実関係によれば、原審のいわゆる価格返還請求権は、訴外会社が、被上告人の所有に係る本件土地を買い受け、売買契約を解除されたのちこれを飯原に売り渡して所有権移転登記を経由し、被上告人に対する本件土地の返還債務を履行不能としたことによつて発生した代償請求権であつて、本件土地に関して生じた債権とはいえないので(最高裁昭和四三年(オ)第五八六号同年一一月二一日第一小法廷判決・民集二二巻一二号二七六五頁参照)、被上告人は、右債権を被担保債権として本件土地につき留置権を行使することはできないものというべきだからである。したがつて、これと異なる原審の判断には法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、右の違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、右に説示したところによれば、被上告人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきことが明らかであるから、これと結論を同じくする第一審判決は相当であり、被上告人の本件控訴はこれを棄却すべきである。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 牧 圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島 昭 裁判官 林 藤之輔)

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